夜な夜なイケナイことをするロウリンの話。途中ちょっと無理やりに見える場面があるかもしれませんのでご注意。ハッピーエンド。(約3,000字)

☆ギブミーアンサー(3)

「今日はロウのリクエスト、聞いてあげる」
 リンウェルがそんなことを言ったのは、満天の星の夜だった。
 その声色はまるで夕飯の希望でも聞いているかのようだ。そうでないことは不自然に潜められた声が示している。
「リクエストってなんだよ」
「そのままの意味だけど。ロウにはいつも付き合ってもらってるし」
 上着を木の上に掛け、インナー一枚となったリンウェルは両の手を広げる。
「何か試したいことある?」
 首を傾げて微笑むリンウェルは花のように甘い香りを放っていた。そんな気安く身体を晒すなと言えたなら多少格好もついたかもしれない。だが今の自分は花の香りに引き寄せられる虫でしかない。蜜を啜り、目の前の快楽に溺れるだけの存在に過ぎないのだ。
「……何でもいいのか?」
「えっちはダメだよ。子供出来たら大変でしょ?」
 それもそうか、と少し悩んだあとで、ひとつ思いついたことがあった。

「ねえ、本当に大丈夫なの……?」
 不安げなリンウェルがまたこちらを振り向いた。
「大丈夫だって」
 木の幹に手を突かせた状態で背後からその身体を密着させる。同時に回した腕を胸へと這わせ、硬くなった突起を摘まんでやった。
「……あっ……!」
「ほら、脚閉じろ」
 ここに至るまでの手順は概ねこれまでと同じだった。後ろから胸を弄り、物足りなくなってきたところで服を暴く。正面に回ってピンクの突起をこれでもかというほどねぶり、リンウェルの膝が崩れ落ちる前に穿いているものを取り払った。
 下着の上からも確認はしていたが、今夜のリンウェルもよく濡らしていた。秘部が外気に晒されてからも蜜は止まることを知らないようで、溢れたそれで大腿の表面がぬらぬらと照っている。
 これなら何も問題はなさそうだ。
「そのままにしてろよ」
 俺はリンウェルの身体をぐっと引き寄せると、その濡れた大腿の間に勃起した自身を滑り込ませた。
「ひあっ……!」
 ぬちゅ、といやらしい水音がして、挟み込まれた自身が一気に硬さを増したのが分かった。リンウェルの白くて柔い肌と、それに釣り合わない生々しい肉の感触。
「すっげえいい……」
 堪らず腰を引けば表面同士が擦れ合って自身の皮が引き攣れる。それによってもたらされる性的な快感と、目の前に広がる視覚的な刺激は俺にとってはあまりに強すぎて、全身の血が沸き立つ感じがした。
「それ、やだあ……っ、なんかヘンだよぉ……!」
 リンウェルの言葉も耳に入らず、俺はひたすら抽挿を繰り返した。腰を打ちつけるたび波打つ皮膚がこの上なく淫猥で、ついもっともっとと激しくしてしまう。
 周辺には荒くなった呼吸と皮膚同士の弾ける音が反響していた。音を抑えなければと分かっていても止められない。快楽の波に囚われた自分たちは、ただそれに呑み込まれるしかない。
「あっ……!」
 さらに深く、と腰を突き上げたところで、リンウェルがひと際高く啼いた。
「ろ、ロウのがなんか、当たって……」
 当たる、とは。その答えの在り処を探るように先端を小刻みに動かしてやると、リンウェルの腰がびくびくと震えた。
「この辺か?」
 背後から回した手でリンウェルの秘部を弄れば、リンウェルは再び甘い声を上げた。腹と背がぴたりと密着した形で、互いの吐息が混ざり合っているのが分かる。
 甘い、甘すぎる。リンウェルの放つもの全部が甘ったるくて、その皮膚も髪も、全部飴か何かで出来ているんじゃないかと疑っていると、指先が薄い茂みの奥にぷくりと腫れ上がる何かを見つけた。
「やっ、だめ……!」
 それに触れた瞬間、背を仰け反らせたリンウェルを見てすぐ、当たりを引いたなと思った。
「ここ、気持ちいいんだろ」
 それをぐりぐりと、遠慮なんかせずに弄くり回した。リンウェルの腰ががくがくと揺れるたび胸が熱くなった。
 別に揶揄おうと思ったわけじゃない。俺だって気持ちいいことは好きだし、それを求めるのは自然なことだ。だからリンウェルにも素直になって欲しかったし、リンウェルは俺に付き合ってもらっていると言ったが、俺はまるでそんなつもりはなかった。それでもリクエストに応えてくれるというなら、もっと乱れて見せて欲しいと思った。俺の前で。俺だけの前で。
「そこ、っ、ダメ……ダメだってば……っ!」
 リンウェルの膝が頽れそうになる。それでも腰を動かすのを止めない俺と、なんとか持ちこたえようとリンウェルが姿勢を変えたのが重なった。それが良くなかった。
「ひ、ああああっ――!」
「……っ!」
 打ちつけた自身が飲み込まれたのは、先ほどとは比べ物にならないほど熱い粘膜の壁だった。それが何か、どこであるかなんて知らないはずなのに、俺の身体はそれが何をする場所かきちんと分かっていた。
「やあっ、はいってる、はいってるからぁっ」
 そう言われても、もう理性の行き場も本能の逃げ場もない。
「やべ、止まんねえ……っ」
 かくかくと揺れる腰はまるで自分のものではないみたいだ。言うことを聞かない、制御ができない。目の前で声を上げるリンウェルをただ我が物とするまで止まるなと何者かに操られているみたいだった。そいつが耳元で囁く。「念願叶って良かったな」
 その正体が紛れもない自分自身であることにも気がついていた。俺のことを知るのは俺しかいない、当然のことだ。
 それでも俺はいつも夢見ていた。いつか本当にリンウェルと恋仲になれたら。緊張しながらも隣を歩いたり、一緒に食事をしたり、話をしたり恋人らしいことをしてみたい。リンウェルが困っているなら助けたいし、頼られてみたい。泣いていたら、それを笑顔に変えてやりたい。リンウェルが好きだから。
 そう、俺はリンウェルが好きなのだ。今こうして疚しい思いに駆られているのも嘘ではないが、同じくらい、いやきっとそれ以上にリンウェルを想う気持ちもある。それを叫ばないでどうする。
「……好きだ……!」
「えっ……」
 漏らした言葉には何の飾りもなければ誤魔化しもない。そんなもったいぶる余裕なんてない。
「好きだ、リンウェル、好きなんだ」
「……っ!」
 突如締め上げられた自身はその刺激に堪えられずリンウェルの奥で精を吐いた。自身を引き抜いたのに続けて、中から白濁が溢れるのが見えた。まごうことなき、罪の色だと思った。
 後始末をする俺たちの間には気まずい空気が流れていた。あれからリンウェルは頑なに口を閉ざし、何も言わないままだ。
「さっきの、嘘じゃねえから」
 痺れを切らしたのは自分の方だった。
「ずっと前からお前のこと、好きだったんだ」
 伝わっていないはずはなかったが、改めてリンウェルの目を見てそう口にする。やかましいほど音を立てる心臓が痛くて張り裂けそうだ。
 振られたっていいと思った。勿論恋が叶うに越したことはないのだが、それ以上にもうこの気持ちを自分の中だけには留めておけなくなっていた。これほどまでに膨れ上がった想いをリンウェルに知って欲しかった。
 ところがリンウェルから返ってきたのは予想外の言葉だった。
「勘違いだよ」
「え……?」
「私を好きだなんて勘違い、錯覚」
 交際を拒否されはしても、まさかこの気持ちの存在まで否定されるとは。
「そんなわけねえだろ、お前といると楽しいのに緊張するし、今だってすげえドキドキして……!」
「そんなの、えっちなことしてる時と同じでしょ」
 リンウェルの声が静かに夜に響く。
「興奮してるのと緊張してるの、何が違うっていうの」