社会人ロウ×大学生リンウェル。ラブホでいちゃいちゃする話。(約8,100字)

☆あなたとドライブ2


 背後から腕が回ったのとドアの閉じる音がしたのはほとんど同時で、鞄を外す暇もなくすぐさま唇を奪われる。あまりの勢いに驚いてリンウェルが壁にもたれると、逃げ場など与えないというように顔のそばに手をつかれた。
「……ま、待って」
 合間にそんな言葉を挟んでもまるで効果はない。何度も何度も啄むようなキスは、段々と深く抉りとるようなものに変わっていく。ちゅ、という水音が舌から聞こえると、いつの間にか捲られたニットのセーターから素肌が外気に晒されていた。
「待ってってば」
「嫌だ」
 どれだけ待ったと思ってんだよ、と耳元で囁かれればもうそれ以上反論できそうにない。とはいえそれはリンウェルに落ち度があるわけではなく、地元を離れて暮らしている学生である以上、少なくとも卒業まではこの状況を諦めてもらうほかなかった。
 あれよあれよという間にリンウェルの身体を潜り抜けたセーターは、今は見慣れない床で形を無くしている。頭を抜く際に髪留めを巻き込んでしまってもロウは気にも留めなかった。これが遠距離恋愛の反動であるなら随分だなと、セーター同様床に転がった髪留めを見てリンウェルは思う。
 リンウェルが地元の最寄り駅に着いたのはつい数十分前のことだ。迎えに来たロウの車に乗って揺られた先は自宅でも腹ごしらえするためのレストランでもなく、田舎にしては新しめのラブホテルだった。まさか部屋に入るなり嵐のようなキスの応酬で、シャワーすら浴びさせてもらえないとは思わなかったが、押し付けられた下半身の熱にその思いの強さを知れば抵抗など出来はしない。自分だって寂しかったのだと舌を差し出せば、部屋の奥に踏み入らずとも溶け合う音が響いた。
「もういいか?」
 返答も待たずベルトに手を掛けるロウを見て、リンウェルも大人しくスカートを脱いだ。皺にならないようにと軽く畳んで下着もその下へ滑り込ませると、ロウは既に避妊具を着け終えていた。
「すっげぇ濡れてる」
 片脚を抱え込まれると嫌でも秘部が照らされる。自分からはその様子を窺い知ることは出来ないが、早々に下着を下ろしたのはこれ以上体液で汚したくなかったからだ。こういう時実家で過ごす不便さを感じないでもない。まあ自ら洗濯機を回せばいいだけの話なのだが、普段と違う行動で怪しまれたくもなかった。
 いいからはやく、とその首に腕を回して支えとすれば、明らかに自分でないものの熱をそこに感じる。リンウェルが腰を落として迎え入れるよりも先に、ロウがその蜜壺に自身を埋めると自然と声が漏れた。
「ぁ……」
「……っ、きっつ……」
 痛みこそないがおよそ三か月ぶりの訪れには流石に息苦しさを感じる。ロウが身体を小刻みに動かせばそれも段々と薄れてはいくが、片足立ちのこの体位では行為を受け入れる一方になるしかない。
 もどかしいのはロウも同じだったようで、その動きに緩急をつけようとしながらもなかなか思い通りにならないのが気に食わなかったらしい。「わるい、」と一言発したのはリンウェルの床に着いたもう片方の脚をも持ち上げた後で、背に感じていた壁の冷たさから解放された瞬間、リンウェルは自重を全てロウとの結合部分に預けることになってしまっていた。
「えっ、や、ちょっ……!」
 リンウェルの戸惑う声も聞かず、ロウは激しく腰を揺らす。部屋には素肌がぶつかり合う音に混じって体液の弾ける音が響いた。
「やぁぁあっ! あぁっ、あっ…ぁあぁっ!」
 律動は一定のリズムを刻みながらも、微妙な加減の差が飽きることない快感となってリンウェルに押し寄せる。今にも力の抜けそうな腕を辛うじて留めておくことに精一杯で、あとはただひたすら嬌声を上げることしかできなかった。全神経が集まっていると錯覚するほどに繋がった部分は過敏になっていて、互いの腹がリンウェルの体液で塗れていることに気付いたのは行為の後に汗を流そうと向かった脱衣所でのことだった。
「すげえ濡らしまくってたな」
 そんな気持ちよかったか? というロウの声が湯気に煙る浴室で反響する。確認せずともにやついた顔が浮かんで、リンウェルは気恥ずかしさで頬まで湯に浸かった。
「かわいい」
 甘い賞賛はご機嫌取りではないと知っている。背から回された腕は部屋に入って来たときのものとはまるで違う温かさがあった。ダメ押しにと髪に落とされたキスに根負けすれば、リンウェルはようやくロウに向き直って返事としての唇を重ねた。
 体温だけでなく浴槽までも分け合えるラブホテルという施設は、リンウェルは嫌いではない。お互いに実家暮らしとなるこの土地では重宝する上、車でしか来られない位置にあるここは知人と鉢合わせる心配もなかった。まあ帰省早々連れてこられる場所としてはふさわしいとはあまり思わないが。
「おなかすいた」
「帰りファミレスでも寄ってくか?」
「今日は多分ごちそうだしなあ」
 やめとく、とロウに湯の中で身体を預ければ水面が静かに揺れる。
「コンビニで飲みものでも買ってくか」
「うん」
「アイスも買ってやるよ」
「ホテル代も払うのに?」
「お前は次の帰省の費用でも貯めとけ」
 バイト代も入っているから大丈夫だと言っても、おそらくロウは聞きもしないのだろう。例え聞いてくれたとしても、後日別の形になって返ってくるのが目に見える。ロウには金銭関係に何かしらのプライドがあるらしい。
「社会人だから?」
「いや、彼氏だから」
 ときめいたのはこちらのはずなのに、腕に力を込めたのはロウだった。
「はあ……いつまで続くんだよ、こんな生活」
「あと二年くらい?」
「早く卒業してくれ……」
 こちらに就職できるとは限らないが、出来るだけ力は尽くしたいと思う。限られた地方公務員の枠がどれだけ困難を極めるのかロウはきっと知らないだろうが。今はせめてもと空白を埋めるようにキスを繰り返していれば、二人が再び熱を持ち始めるのにさほど時間はかからなかった。

 リンウェルが家に着いたのは夕方になってからだった。ただいま、と声を掛けても返事が返ってくることはなく、車庫に車が無いことからおそらく買出しに出掛けているのだろう。リビングがまだほのかに温かいのを見るとほとんど入れ違いになってしまったようだ。
「はあ……」
 リンウェルは暖房の電源を入れると、やわらかいソファに脱力する。結局ホテルでは玄関前と浴室、寝室でそれぞれ一度ずつ事を致してしまった。たった三時間弱の休憩の間に三度も行為に耽るとは随分と再会に盛り上がってしまったようだ。重たい体を今のうちに少しでも回復させておこうと今度はソファに寝そべる形になると、ちょうど暖房の風が足にあたって気持ちがいい。リラックスした形で端末を取り出せば、大学の友人たちで組んだグループチャットにいくつかメッセージが届いていた。
『スキー場ついた!』
『いいなあ~私は実家でコタツに入ってる~』
『雪ちょっと憧れるわー寒いの嫌だけど』
 各々の近況報告が並ぶ中、リンウェルも何か載せられる写真はないかと探してみるが、こちらに着いて行ったところなどホテル以外にはない。とりあえずコンビニで買ってもらったジュースの写真を送って『無事に実家に着いたよ』とだけ書いておくことにした。
 ふと、リンウェルは数日前の友人たちとの会話を思い出す。大学の食堂で繰り広げられたそれは、グループの中の一人に彼氏ができそうだという話が発端だった。
『こないだドライブデートしたんだけど、運転がものすごく怖くて。乱暴とまではいかないんだけど、なんか雑なカンジ……』
『え、それ大丈夫? 事故ったりしない?』
『わかんないけど、普段から運転するし慣れてる、とか言ってたのにそれだから一気に冷めちゃった』
『運転下手だと夜も下手だとか聞くよ? 付き合う前で良かったかもね~』
『性格が出るとか言うよね。なんでかは知らないけど』
 他愛もないガールズトークではあったが、女子大生らしい生々しさもあって内容もよく覚えていた。特に『運転が下手だと夜の方も下手』だという話は根拠が分からないにしろ皆が賛同していたため、どうやら広く知られている話らしい。
 その時は他人事として聞いていたが、自分に当てはめてみるとどうだろう。ロウの運転は乗っていて安心感があるし、雑だと思ったことはない。ものすごいスピード狂であったならおそらく恋人関係は既に解消されている。一方で夜の行為の方はというと、乱暴とはかけ離れているが運転技術と相関性があると言われると甚だ疑問が残る。リンウェルからすれば交際するのはロウが初めてで誰かと比べることはできないが、いわゆる彼女を思いやる優しいセックスではないような気がするのだ。かといってロウとのセックスに不満があるわけでもなく、言ってしまえば気持ちいいので変えてほしいという願望もない。おそらく激しいと感じてしまうのは、自分たちが年に数回しか会えない遠距離恋愛の関係にあるからで、普段離れている分想いをぶつけてしまうがためなのだとリンウェルは結論付けた。そうなればなおのこと荒々しい方がいい。数時間前の情熱的な行為を思い出せば、また身体が疼いてしまいそうだった。

   ◇

 年末休みに入ったロウと時間を持て余しているリンウェルが車で出歩くのは言わずもがなで、大晦日を間近に控えた今日もそうだった。
「どこ行く?」
 目的地を決める前に車に乗り込むというのがリンウェルのパターンで、ロウは呆れながらもそれにいくつか提案をする。
「買い物?」
「混んでるじゃん」
「映画は?」
「今観たいのないんだよね」
「ファミレス」
「さっきご飯食べたばっかりだし」
 ただ車を走らせるだけのドライブがしたいのは山々だが時期が悪い。どこを見ても雪だらけの田舎町は行く先々で通行止めになっていたり、道と畑の区別が付かなくなっていたりと割と命に関わるような道路状況になっている。街中を走らせるには問題はないが、なんとも面白味に欠ける。
「わがまま言ったのはお前だからな」
 そう言って車を発進させたロウの横顔から、リンウェルはなんとなく行先を察した。どうやらまたあそこへ連れて行かれるらしい。
「とりあえずコンビニな」
 飲み物や軽食を買うのだろうというリンウェルの予想は見事に的中した。二人きりでいられるという点においては特に申し分ないが、こんなことになるなら下着くらい新調したものにしておくべきだった。今頃それは旅行鞄の一番下で眠っているに違いない。
 再び走り出した車は押し固められた雪の上をゆっくりと進んでいく。ロウが今年の初めに買った車は中古のコンパクトカーだった。地道にお金を貯めているとは聞いていたが、流石に大きな車を買えるほどではなく、ロウの父親の伝手で安く買えるものを探したらしい。
「軽いから風の日は煽られるんだよ」
 言葉とは裏腹に楽しそうなロウの表情を見れば、やはり車が好きなのだなと思う。中古とはいえまだ傷もないその車を大切に扱っているようだった。
「ロウって、普段もこういう運転なの?」
「こういうって、どういう運転だよ」
 どうやら自分がどんな運転をしているのかは本人には分からないらしい。
「うーん、なんていうか……丁寧? ロウの普段の性格より穏やかじゃない?」
「俺っていつもそんな荒れてるか?」
 問題なのはそこではない。ロウが普段どんな性格であるかは昔からおおよそ理解できているし、それと運転の際の空気感の差が一体どこから来ているのかを知りたいのだ。
「実は一人の時、ものすごいスピード違反してたりして」
「そんなことはない……はず」
「声小さいよ」
 多分、とさらに付け加えながら、ロウはいつもよりもさらにゆったりとカーブを曲がる。
「お前乗せてりゃ丁寧にもなる」
 さも当たり前のようにロウが放った言葉は、今日、いや、今季一番リンウェルの胸に来た。ロウの慎重すぎる運転を生んでいたのは、実は自分の存在だったのだ。
「事故ったら大変だし、酔って気分悪いとか最悪だろ。その辺は少し気にしてるかもな」
「そういうとこ、」
 好き、とリンウェルが零すと、ロウはやや動揺したのか少し間を開けた後、そうか、とだけ答えた。
「なんでまたそんなこと気になったんだ?」
 それは、と答えようとしてリンウェルは一瞬口ごもったが、別に隠すようなことでもないかと素直に理由を打ち明けた。
「友達の彼氏候補がね、運転下手だったんだって」
「へえ」
「慣れてるとか言ってたのに、結果それだったから冷めちゃったって話してたの」
「厳しいな」
「ロウはそうじゃないから良かったなって」
「そりゃどーも」
 そんなロウのそっけない返事に、褒めているのがうまく伝わっていないのかとも思ったが、ロウはただ照れていただけのようだった。じっとその目を覗き込んでやれば、なんだよ、と顔を背ける。自分には可愛いだの何だの言うくせに、自分が褒められることには滅方慣れていないのだ。
 リンウェルはついでにその場で聞いた俗説についても聞いてみた。
「運転が下手だとエッチも下手だって、聞いたことある?」
「はは、なんだそれ」
「みんな知ってる風だったけど、ロウも知らないんだね。都会の方でだけ有名なのかな」
 それとも私たちが田舎者すぎるだけ? と首を傾げていても、ここにはその田舎者しかいないのだから検証のしようもない。
「性格出るんだって。よくわかんないけど」
「へえ」
 ロウは全然違うよね、と言ってみても、おそらくロウは自分の運転具合も理解していないのだからピンと来ないだろう。そんなおしゃべりを繰り広げているうち、数日前にも見た建物が近づいていた。

 ホテルは満室とまでは行かなかったが、いつもよりも少し混んでいた。
「休憩?」
「いや、フリータイム」
 夕方までゆっくりしようぜ、とロウはベッドに寝転ぶとTVモニターの電源を入れる。リンウェルが足も伸ばせる広い浴槽を楽しんでいる間、ロウは好奇心のおもむくまま広い世界を巡っていたらしい。
「楽しい?」
 AVを観ているとは思えないほどのロウの真剣な眼差しについ笑ってしまいそうだった。リンウェルは下着にバスローブを羽織った格好でロウの隣へと寝転がる。
「ベッドふかふか~寝ちゃいそう~」
 手足をばたつかせ全身で羽毛を感じているとふと影が落ちた。
「リンウェル」
 名前を呼ばれてそちらに顔を向ければ、唇同士が触れるだけの優しいキスをされた。頬を撫でられる感覚には慣れておらず、思わず目を逸らそうとするが迫るロウからは逃げられない。されるがままにキスを受けていればそのうち力が抜け、リンウェルは支えを失ったようにベッドへと再び倒れ込んだ。
 間を置かず覆いかぶさってきたロウは真剣な眼差しでこちらを見つめていた。髪も目も、唇もはだけたバスローブから覗く下着も全てがその視界に捉えられていると気づくと、急に恥ずかしくなってくる。
「あまり見ないでよ……」
「……かわいい」
 言うや否やロウはリンウェルの身体中にキスの雨を降らす。それはいつものように激しいものではなく、一か所ごとに印をつけるようなキスだった。見えない印で埋め尽くされた素肌にはいつの間にか熱が籠っていて、これから与えられるであろう快感への期待で粟立つようだ。
 ところがロウはリンウェルの下着の金具を外すと、露になった膨らみに手を掛けただけだった。先端を硬くした突起には触れず、そのやわらかな質感をじっくりと楽しんでいる。リンウェルが敢えて背を反らせてみてもロウの様子は変わることなく、些細な風が起きただけでも反応してしまいそうな突起は寂しく主張を続けていた。
「さ、さわって……」
 蚊の鳴くような声を出して初めて、ロウはその先端を口に含んでくれた。ぬるりとした舌先が触れるたび、リンウェルはかつてないほど甘く啼いた。と、同時にその下半身も揺れる。一番熱くなった中心はひくひくと痙攣しているのが自分でもわかるほどで、一刻も早く慰めてほしくて堪らないのに、ロウの手が動く気配はない。自分の手を伸ばしながらも、すんでのところで思いとどまるのをかれこれ数回は繰り返している。
 いつもならすぐに触れてくれるのに。指で具合を確かめた後、ロウの硬くなったそれで足りない部分を埋めてくれるのに。
 繋がる準備は充分出来ていても、ロウが来てくれないと始まらない。いまだ赤子のように乳房を貪るロウは、明らかにいつもと違う。あまりの切なさにリンウェルの視界が滲み始めた。
「な、んで……」
「え、おい、」
「……なんで、シてくれないの……?」
 胸への刺激だけでは達せない。優しい愛撫だけでは足りない。随分とわがままになった身体はもう、ロウの激しいセックスでないと満足できない。
「もっと、さわってよ……」
 リンウェルはロウの手を取り中心へと導く。
「ロウのせいで、こんなになっちゃったよ、」
 下着はもうほとんど意味を為さない。伝った愛液でシーツには染みができる寸前だ。
「はやく、もう挿入れて」
 待て、と急いで避妊具を取り出すロウを押し倒しながら、リンウェルはその腰に跨る。避妊具が被さった上からすぐさま秘部を押し当てると、飲み込むようにそれを埋めていった。
「あ……ぁ……」
 背を反らすと快感が脳天まで突き抜けるようだった。一本になったそれが全身を貫いてびりびりと痺れを起こす。まだ根元まで避妊具を下ろせていないロウに構わず、リンウェルは上下に身体を揺さぶった。
「あっ、あ…ぁぁん…! あ…あぁ…っ」
 もはや反射的に出るようになってしまった声も、今は止めようという気すらない。膝のあたりにひっかかった下着もそのままに、リンウェルは跳ねるように律動を繰り返すとまた中で蜜が溢れる感覚がした。
「はげしいのが、すき、なの……っ!」
「もっと、いっぱいシて……っ!」
 訴えた途端、腰を掴まれたと思うと下から激しく突き上げられる。ぱん、と肉のぶつかり合う音がして、リンウェルはロウの胸に手を突いた。
「激しいのがいいのか?」
「うん、はげしい、の、いいっ」
 反動で跳ね返るくらい強く腰を打ち付けられれば、リンウェルはもう頷くことしかできなかった。繋がったまま反転させられると、ロウが体重をかけて覆いかぶさってくる。自分の膝が胸についてしまいそうなくらいのところに見えて、完全に浮き上がった腰は秘部をロウに晒している。
「あ……、だめ、これっ……!」
「激しいのがいいんだろ」
 ほとんど垂直に楔を打たれると、悲鳴にも似た嬌声が上がった。
「ああああぁぁっ! だめっ、おかしくなるっ」
 過剰に擦られた中は感覚が薄れているのに、先端によって穿たれる最奥ははっきりとロウの存在を感じている。結合部から溢れた愛液は飛沫となって弾けて皮膚を濡らした。
 呼吸の仕方も分からなくなりロウに助けを求めると、すぐさま舌を入れられる。なおのこと苦しいはずなのに、必死でそれにしがみつくほど気持ちよさが勝る。唾液に塗れた唇がぴったりと合わさった瞬間、甘い快楽が全身を巡ってリンウェルは果てた。きゅう、と中が収縮したのに合わせてロウも射精すると、一気に脱力したのか腕からがくりと崩れ落ちた。

「ロウ、なんか変だった」
 リンウェルが初めて垂れた不満は今日の行為のことだ。いつもあんなことしないのに、と口を尖らせれば、ロウは悪かったと頭を掻いた。
「さっきお前が運転とセックスがどうのこうの言ってたからよ。優しいのが好きなのかと思って」
 なるほど、と合点がいきながらも、リンウェルはロウの鼻を摘まむ。
「あれは優しいっていうより、しつこいの!」
 同じところばかり弄られて、ぐずぐずになったこちらの身にもなって欲しい。
「悪かったって。激しいの、好きなんだもんな」
 そう口にしたのは確かに自分だが、行為の後に聞くと非常に恥ずかしい。誰のせいだと言ってみても、おそらくロウはにやけるだけだ。とりあえず、またあんなことをされては困るのでここは大人しく否定しないことにしておいた。

「今度俺がそっちに行くか」
「えっ」
 浴室でロウがふとそんなことを呟く。
「仕事は?」
「有給取る」
 取れても三日くらいだろうけどな、と溜息をつきながらも、ロウはきっとやってくるのだろうとリンウェルは確信していた。いつになるかは分からないが、それまでに部屋の片づけをしておかなければ。……ついでにホテルもいくつか目星をつけておくことにする。

終わり