「ロウの、イくときの顔、見たい」
不意に、リンウェルがそんなことを言った。
こちらは律動の真っ最中。皮膚同士が弾けるたび、体液が結合部を汚している。
「なんで」
「ロウばっかり、ずるい」
私の顔は見るくせに、と言いたいらしい。
はあ。余計な対抗心は必要ないというのに、こういうときのリンウェルはなぜかいつもより強情だ。
「ダメに決まってんだろ」
「なんで」
「なんでもだよ」
不満そうに口をへの字に曲げるリンウェルの腰を掴んで、ちょっと強く奥を穿ってやれば甘く啼く。その白い喉が反り返るのを見て少し満足すると、再び浅いところをテンポ良く掻き回していく。
「いつもお前が先にイくからだろ」
そうなればリンウェルは快感に惚けてしまって、とてもじゃないがこちらに意識を向けていられなくなる。無防備なその姿を上から眺めるのが好きだと言えば、きっとまた怒るのだろうが。
「今日は我慢するもん」
そんなことが可能なのかと感心していると、リンウェルが小さく笑った。
「ほら、ロウ、イってもいいよ」
ナカがきゅうと締まり、粘膜が自身に絡みつく。
「う、あっ」
その不意打ちは、ずるい。ただでさえ限界寸前でなんとか堪えているものが何かの拍子で零れ出しそうだ。
「ねえ、ロウ、きもち、いい?」
息も絶え絶えにそんなことを聞くな。気持ちいいに決まってるだろ。最初から最後まで、一瞬でも気を抜けないんだ、こっちは。
「やったな、」
「え、あ」
リンウェルの身体を引っ掴み、ぐるりと反転させる。引き寄せた尻に自身を押し当て、先ほどまで収まっていた鞘を探った。先端が入口を捉えた瞬間、腰を進めてリンウェルを一息に貫く。
「あっ、ああっ!」
これならどうだ。不覚をとって達したところでリンウェルからこちらの表情は分からない。奥の深いところが好きなリンウェルも気持ちよくなれて、まさにWin-Winだ。
覆い被さるようにして、何度も腰を激しく打ち付ける。胸の先端を摘むとその度に甘い嬌声が上がって大層気分が良い。今日はこのままイくのも良いかもしれない。
ロウ、
ふと、名を呼ぶ声が聞こえた。
「ちゅー、したい……」
「……」
それがリンウェルの本心なのか策なのかは分からない。ただ、可愛い彼女にそう強請られて応えない奴は相当のサディストか心の無い鬼か何かなのだろう。
自分はそのどちらでもない。彼女の願いならなんでも叶えてやりたいと思う、ただの平凡な男だ。
リンウェルを正面に向かせ、何度目か分からない挿入と同時に口付ける。漏れる吐息ごと舌を絡め、唾液を啜り合う。上も下も体液で混ざり合い、もはや境界など分からない。それでいい、それがいい。このまま溶け合って一つになればいい。
「好きだ、リンウェル」
「わ、たしも……っ、すき…っ、すき……!」
細い腕で縋り付いてくるリンウェルが愛おしくて堪らない。もうどうにでもなれと律動をはやめれば、身体の底から何かが込み上げてきた。
「あ、あ、い、イく、イっちゃう」
「俺も、イきそ……」
ダメだ、もう耐えられない。
「……っイく……!」
最後に最奥を突き、リンウェルを肩口へと押し付けた。その瞬間、溜め込んでいた熱が弾け、避妊具が自分の吐き出した精液で満ちるのが分かる。
ほとんど同時にリンウェルも果てていた。肩で呼吸をしながら力なく横たわる姿は艶っぽい。
目が合うと微かに開いた唇にキスを落とした。たちまち首に回った腕はやはり細くて、ほのかに石鹸のいい匂いがした。
「なんで見せてくれないの」
胸に頭を乗せたまま、リンウェルは先ほどよりもずっと不機嫌そうに口を尖らせている。
「なんでって、そりゃあ」
「そりゃあ?」
「情けねー顔してると思うから……」
「それがいいのに」
はて、情けない顔が良いとは一体どういうことだ。
「私しか知らない顔ってことでしょ。見たいよ」
見せてよ、と頬を抓るリンウェルは不機嫌そうではあるが、ほんの少し楽しそうでもある。
こちらもお返しにとその頬に指を立ててやれば、柔い肌に指先が埋まる。リンウェルがそれにぷうっと空気を入れて膨らませると、弾けるようにして跳ね返ったものだから、二人でくすくすと笑った。
まったく。
「もう見てるだろ」
こんな緩んだ顔、外では出来ねーよ。
再び腕の中にリンウェルを抱き、額に口付ける。背に回った腕の強さを確かめながら、ぬくい毛布の中でその温度を互いに分け合った。
終わり