リンウェルが「魔法の言葉」でロウを癒してあげる話。アホエロでイチャエロ。喋るモブがいます。(約7,700字)

☆癒してあげたい!

 あれ、と思ったのは家で夕飯を食べている時だった。
「お、今日はカレーなんだな」
 テーブルに並んだ湯気の立つ皿を見て、ロウが言った。
「うん。食材が安かったから。もしかして気分じゃなかった?」
「んなわけねえだろ。お前の作るやつ、いつも美味いし」
「はいはい、褒めても何も出ないからね。冷めないうちに食べちゃお」
 揃って席に着き、「いただきます」と手を合わせる。そうしてスプーンを手にして食べ始めたところで、ふと違和感を覚えた。なんとなく、ロウの手の進みがいつもより遅い気がした。
 ちらりとその表情を盗み見ると、どこか翳っているようにも見えてくる。私は思わず、
「何かあったの?」
 とロウに訊ねた。
「……へ?」
「いや、なんとなく。いつもより元気がない気がして」
 するとロウは口ごもった後で手を止め、視線を落とした。
「いや別に、そういうわけじゃねえんだけど……」
「そういうわけじゃなくて?」
「今回の依頼人が少し厄介、っつーか……」
 曰く、どうやら仕事で面倒ごとがあったようだ。とある商人に商品の護送を頼まれたものの、彼がなかなかのトラブルメイカーで、よくほかの商人たちと揉めているらしい。今も原因のはっきりしない争いごとに発展しているらしく、そのせいで商品の出発が遅れているのだそうだ。
「そんなの、断っちゃえばいいじゃない」
「そうなんだけど、前金もたんまり貰ってんだよな。返そうとしたけど、延びた分もさらに払うからって受け取ってもらえなくてよ」
 金払いだけは良いんだよな、とロウがため息を吐く。
「挙句の果てに、〈紅の鴉〉は途中で依頼を放棄するような連中だったんだな、とかなんとか言われてよ。頭きて、何が何でもやってやるって決めたんだけど」
 決意したは良いものの、それからさらに2日が経過してしまった。「そう難しい仕事でもねえのに、俺何やってんだろうって」
 日々をせわしなく過ごしているロウにとっては、こういったただ待つだけの時間が耐えがたいのだろう。他の仲間たちが時間を惜しんで動き回っていれば、なおさら立ち止まった自分が浮き彫りになる。
「なるほどね」
 私はカレーをスプーンで突きつつ、頷いた。
「でもそれはロウは悪くないし、その商人のせいでしょ。だったら、もっとずっしり構えてなよ」
「まあ、そうなんだけどよ」
「空き時間が嫌なら、他の軽い仕事でも受けたら? ズーグル退治の依頼とか、その辺にごろごろ転がってると思うし」
 私の提案に、ロウは「それはいいかもな」とようやく柔らかい表情を見せた。
「早速、明日何か探してみるか。もうしばらくゴタゴタは続きそうだしな」
 ありがとな、と言ってロウは笑った。その後はいつものようにスプーンを手早く動かし、私の作ったカレーをぺろりと平らげていた。
 それで悩みはいったん解決したと、そう思っていたのに。ロウのもやもやはどうも上手く晴れなかったらしい。
 というのも、思ったほどズーグル退治の依頼は見つからなかったようだ。近場のものは兵士たちが片付けた後だったし、街を長く空けるわけにもいかないので遠くの依頼は受けられない。依頼前に強敵を相手にしてケガをしては困るし、それでいて例の商人からは何も音沙汰はないままで、つまりフラストレーションは解消されるどころか、依頼に参加できないことで余計に増えてしまったのだった。
 夕方になって部屋に戻って来たロウは、極力明るい表情を見せながらも、しかしどこか元気はなかった。一方で体力は有り余っているため、就寝前の筋トレにいっそう励み、なんとかストレスを解消しているようだった。
 こんなに頑張っているロウが、こんなつまらない苦労をしなければならないなんて。隣で寝息を立てるロウの寝顔を眺めながら、私は理不尽な世界に恨み言を吐いた。一生懸命頑張っている人こそ、報われるべきでしょ。
 同時に、なんとかしてあげたいとも思った。とはいえ自分がロウの仕事に手を出すわけにもいかないし、街の依頼を調整できるわけもない。自分がロウにしてあげられることといったら、せめて帰ってきた時に美味しいご飯を用意して待っているとか、何か癒しになるものを与えてあげることとか、それくらいしか思いつかないけれど……。
「……そういうわけなんだけど」
 翌日、私は仲の良い友人2人を呼び出し、相談に乗ってもらっていた。2人は私とロウが付き合い始める前から私たちのことを知っている、信頼できる友人だ。
 2人は私が奢ったドリンクを飲みながら、話をうんうんと聞いていた。中身が減るたびに、グラスの氷がカランと音を立てる。
「何か恋人を癒してあげられるものはないかなあって」
「そうだねえ」
 おっとりとした性格の友人が、視線を宙に浮かべて呟く。
「そういうことなら、ご飯は? 相手の好物を作ってあげるとかどうかな」
「最近はずっとそうしてるよ。まあ肉が入ってればなんでも喜ぶし、特別感はないかもだけど」
「よく食べるけど、こだわりはないんだっけ? だったら、リンウェルが気合入れたところで気が付かないかもね」
 まさに、と私は頷いた。ちょっとお高めのお肉を買ったとしても、ロウにはいつもの特売肉とほとんど変わらないだろう。
「趣味っていっても身体を動かすことだろうし、私にとっての本みたいに貰って嬉しいものが思いつかないんだよね。お菓子も骨董も喜ばないだろうし」
「それはリンウェルの趣味だからねえ。わたしたちもお菓子以外はいらないかなあ」
 友人はおっとりとした口調で、きっぱりと言い切った。
「どう? 何かいい案はある?」
 話を振られたもう1人の友人はドリンクを底まで飲み切ると、呆れたように息を吐いて言った。
「馬鹿ね。そんなの、ものすごく簡単じゃない」
「えっ」
 私は思わず声を漏らした。
「どんな男も無条件に癒しちゃう、魔法の言葉があるのよ」
 どんな男も? しかも無条件に? まさかそんなものがあったなんて。さすが恋愛経験が人一倍豊富な彼女だ。こういう時、本当に頼りになる。
 いったいどんな言葉だろう。わくわくして耳を傾けたのに、
「それはね、『おっぱい揉む?』よ」
 彼女はごく得意げな表情で言い放った。
「これだけで充分。今夜、ベッドに入ったら聞いてみなさい。それだけで男は元気になるから」
「……~~っ何それ!」
 私はつい声を大きくした。
「せっかく期待したのに!」
 魔法の言葉というから、何かと思えば! それは確かに効果的かもしれないけれど、自分はそんな提案ができるほど豊満ではないし……って、重要なのはそこじゃなくて!
「そういう元気を出してほしいんじゃないんだけど!」
「わかってるわよ。でも、実際癒される男は多いみたいよ。ほら、柔らかいものだったり、ふわふわしたものに触れると気持ちがいいじゃない」
 それと同じ、と彼女は言った。
「うう……」
 私は熱い頬で苦い顔をしながら、言葉を詰まらせた。むちゃくちゃなことを言われているのに、何故か言い返すことができない。柔らかいものに癒されるという理論はなんとなくわかる、わかってしまうけど……!
「ええ~、でも……」
 口を開いたのは、おっとりした友人だった。もしかして助け舟を出してくれるのかもしれない。そう思ったのに、
「柔らかいものっていうなら、猫ちゃんとかの方がいいんじゃない? 最近だと猫吸いとか流行ってるし」
「何言ってんの。男にとっておっぱいは他に比べようのない至極の一品なのよ。猫のお腹とは比較にならないわよ」
「でも猫ちゃんには肉球もあるし。胸の辺りの毛は、ふわふわで気持ちいいけどなあ」
 リンウェルはどう思う? 穏やかに訊ねられると、もはや頭を抱えるしかなかった。2人の手元ですっかり空になったグラスに、これほど後悔した日はなかった。

 夕方、帰ってきたロウに特に変化は見られなかった。明るく振舞ってはいるけれど、やっぱり少し元気がない。その様子を見る限り、今日も進展はなかったようだ。
 いつも通り一緒に夕飯を食べて、夜が更けたら休む準備をする。ロウは浴室に向かう直前まで、部屋の隅でトレーニングに励んでいた。
 ベッドに入ったロウからは、小さなため息が聞こえてきていた。これが仕事の頑張りによる疲れだとか、成長のための悩みによるものだったらどれだけ良かっただろう。原因がそうじゃない、些末なものだと知っているからこそ、私まで胸の中がもやもやしてくるようだ。
 いやいや、私まで引っ張られてはいけない。せめて一緒にいる私がロウを元気づけてあげないと。
 思い出したのは、昼間友人と話したことだった。友人はあれを「魔法の言葉」と自信ありげに話していたけれど……。経験豊富な彼女のことだから、きっと間違いはないのだろうけれど……。
 でもちょっとそれを言葉にするのは勇気がいるなあ……。
 その言葉自体ももちろん恥ずかしいけれど、加えてもうひとつ、自分のは手のひらに収まるサイズなのだ。いやいやまだまだ成長期だし? と思ってみても、癒したいのはたった今この瞬間のロウで、こんな自分でさえ満足できないもので元気のない恋人を癒せるのだろうか。
 だからといって、猫ちゃんのような癒し成分の塊みたいなものを用意することもできない。そもそもうちにはフルルがいるし、猫ちゃんを借りてくることもできない。フルルを吸わせようといったってフルルが嫌がるだろうし、今夜は杜に行っているし……。確かにあの羽の手触りは、多少なりとも疲れを癒してくれる気はするけれど、状況的にそれは叶わない。
 だったらもう、言うしかないのかな……。
 鼓動が騒ぎ出したのと、ロウがこちらに寝返りを打ったのはほとんど同時だった。横になったままばっちりと目が合い、一瞬沈黙が落ちる。
「どうかしたか?」
 先に口を開いたのは、ロウの方だった。
「眠れないのか?」
 私はさらにうるさくなる心臓を抑えながら、意を決して口にした。
「……ロウ」
「ん?」
「えっとね、……お……」
「お?」
「お……、お……」
 決心したはずなのに、次がなかなか出てこない。これではただ「お」を繰り返しているだけの変な人だ。
 ――ええい、もう言っちゃえ!
 そうして息を吸い込んで、言った。
「お、っぱい、……吸う?」
「え」
「……え?」
 ――――あれ?
「……ちっ、ちち、ちがうの!!」
 思わず毛布を剥いで飛び起きた。
 しどろもどろになりながら、私は事情を必死に説明した。ロウをなんとか元気づけたかったこと。友達に相談したこと。「魔法の言葉」を教わったこと。
「いろいろ考えてたら、頭の中で混ざっちゃったの! そういうつもりで言ったんじゃないの!」
 私の話を聞いて、ロウは終始笑いっぱなしだった。目じりの涙を拭って、なおもお腹を抱えて笑う。
「いきなりとんでもねーこと言い出すから、何かと思ったぜ。そういうことだったんだな」
 心配してくれてありがとな、とロウは私の背に腕を回し、抱き締めてくれた。鼻を、ふっとロウの匂いが掠める。同じ石けんを使っているのにそれとわかる、私の好きなロウの匂い。
 と思うと、視界がぐるりと反転した。頭に枕の柔らかい感触がして、ロウの背後には天井が見えた。
「え、……なに?」
「何って、揉ませてくれるんだろ?」
 意地悪な笑みを浮かべて、ロウは私の寝間着をたくし上げた。熱い指が素肌に触れる。
「あっ……!」
 思わず身を捩ろうとしたが、上に跨ったロウがそれを許してくれない。布越しでもわかるほどの熱を持った手のひらが、私の胸を下着ごと揉みしだいた。
「……っ……!」
 はじめはゆっくり、下から上に。あるいは横から、真ん中に寄せるように。優しく撫でるようだったそれに、徐々に力が入って指が食い込んでいく。
「すげえ、やわらけえ」
 嘆息を吐くようにロウは呟き、何度も同じ動きを繰り返した。下から上。横から真ん中。これではまるでパン生地になったみたいだ。実際に捏ね上げられている場面は見たことがないけれど。
 そんなふうにどこか客観視する余裕はあっても、頭の片隅には一抹の緊張が残っていた。何せいつものロウはこんなものじゃない。ふとすると性急に下着を剥ぎ取って、中身をこれでもかと弄ぶのだ。
 その刺激がいつ訪れるかと思うと気が気でなかった。心臓は痛いくらいに高鳴って、身体中が燃えるようだ。
 私の憂いとは裏腹に、なかなかその時は訪れなかった。なかなか、といってもほんの数分のことではあったが、ロウはしばらくの間、私の胸の感触だけを愉しんでいた。
 もしかして今日は本当にこのまま終わるのかもしれない。そう思った時、
「なんだよ、そんな顔して」
 ロウがこちらを覗き込んで言った。
「そんな顔って、どんな顔よ」
「なんかすげえ物足りなさそうな顔」
「そ、そんな顔」
 してない、と言おうとして嬌声が取って替わる。ロウの指が下着の上から先端を弾いたのだ。
 ただその一瞬で、全身が甘く蕩けるのがわかった。私の中のすべての意識がロウに向いて、そのことしか考えられなくなる。
「なんだ、最初から吸った方が良かったか?」
 また意地悪そうに笑って、ロウは私の下着をずらした。同時にぬるりとした熱い舌が突起に吸い付いて、私の背中は植物の茎のように大きくしなった。
「ああっ、ひああっ、あんっ、あっ、あんっ……!」
 だめ、と口にする暇もなかった。拒絶できないくらい、気持ちいい。
 そこで初めて気が付いた。私はずっと、緊張するくらい、想像で身体を火照らせるくらい、期待していたのだ。
 不意に差し入れられた手に、ほとんど反射で背を浮かす。下着が取り払われて、露わになった頼りない胸元にロウの視線が降り注いだ。
「……み、見ないでよ」
「なんでだよ。かわいいだろ」
 かわいいサイズとでも言いたいの。そんな恨み言も、ロウに触れられた途端どこかへ消え去ってしまう。乱暴なようでどこか優しい指が、ロウの気持ちを伝えてくれるからだ。
 ロウは馬鹿にしているわけでも、からかっているわけでもない。心の底から私のことを「かわいい」と褒めてくれている。好きな人にそんなふうに想われて、嬉しくないわけがない。
 私は本能のまま、ロウが思うまま、その指と舌に与えられる快楽に酔いしれた。すぐそこからいやらしい水音が聞こえてきて、甘すぎる刺激がひっきりなしに私の身体中を駆け巡る。熱で頭の中が霞むようだった。もう駄目だ、溶けてしまう。
 あられもない声を出しているとわかっていても、もはや止めることはできなかった。それがロウの興奮を加速させているとわかればこそ。
 その証拠に、さっきから私の大腿に熱いものが触れている。ロウの硬くなった、何よりも熱いそれ。
 ロウが私に欲情している。そう思っただけで、お腹の下の方がじんじんと疼いてくる。同時にぎゅっと胸が締め付けられたみたいになって、熱いものがじわりと全身に広がった。
 そんな私を知ってか知らずか、ロウは私の穿いているものに手を掛けた。下着ごと一気にずり下ろされ、下半身が外気に晒される。
 ロウも脱ぐのかなと思っていたら、そうではなかった。ロウは下の方へと位置をずらしたと思うと、私の脚の間に体を収めた。
 そこでふと思う。あれ、この体勢ってもしかして――。
 待って、と制止する前に脚を大きく開かされる。と思うと、ロウは何も言わずその間に顔を埋めた。
「……~~っ!」
 声にならない声が上がる。ぬるりとしたロウの舌先が、胸よりもずっと敏感な先端を捉えた。
「やあ……っ! あっ、ま、まって……! あっ……!」
 必死にロウの髪を掴んで抵抗するが、それでもロウの動きは止まない。粘膜同士が触れ合い、擦れて、絡み合う。脚の間からくちゅくちゅと卑猥な音がする。やだ、聞きたくない、恥ずかしい。
「ねえっ、だめ……っ! そんな、広げちゃ……!」
 奥まで挿し込まれた舌が熱い。ともすると音を立てて吸い上げられ、私の腰は大きく何度も跳ねた。
 このままでは、耐えられない。内側から湧き上がってくるそれが、とうとう溢れてしまう。
「も、だめ、イっちゃ、イっちゃう……!」
 そう零した瞬間、陰核を摘ままれて私は達した。視界が真っ白になって、がくがくと体が震える。上手く息ができない。苦しい。でも、気持ちいい。
 ようやく呼吸が整ってきた時、ロウが覆いかぶさってきた。私は両腕を伸ばして、その汗ばんだ首にしがみついた。
 入ってきたロウのそれは、今日一番熱く感じた。一番太いところに内側を擦られて、思わず声が漏れる。
「……すげえ締め付け」
 苦しそうにロウが言ったので、私はほくそ笑んだ。自業自得でしょと思いながら、軽く腰を揺すってみる。「おい、待て」とロウがまた苦しそうに呻いた。思わず私はふふっと笑った。
「あー……くそ」
 悔し気に呟いたロウは、少し乱暴に唇を押し付けてきた。我慢できない、というロウからの合図だ。
「いいよ、動いて」
 私の言葉を聞いて、ロウは腰を大きく打ち付け始めた。激しく、それでいて私の反応をきちんと確かめながら。時折リズムを変えるのは、それこそ私を思ってのことなのだろう。単調にならないように。独りよがりにならないように。
 その思いやりこそが、私の体を、心を震わせる。どくんと大きく波打った心臓が、全身に熱いものを送り出していく。腰も背中も指先も、下着のひっかかった爪先にも、甘く蕩けるような痺れが走った。
「リンウェル、好きだ」
 ロウがうわごとみたいに呟いて、キスの雨を降らせた。「私も」という返事は声にならない。全部全部、ロウの唇の中に吸い込まれていってしまう。
 こんな幸せなことってない。好きな人を求めて、求められて。これほど安心できる場所がほかにあるだろうか。
 私はロウを癒してあげたいと思った。でも本当は今この瞬間、癒されているのは私の方なのかもしれない。誰よりも好きな人と一番近くいること。通じ合うこと。こんなに安らげるものを、私にはほかに見つけられそうにない。

「どう?」
 改めてベッドに入った後で、私はロウに訊ねてみた。
「少しくらい、元気出た?」
 ああ、とロウは満足そうに頷いた。
「おかげさまでな。いろんな意味で、元気になったぜ」
「ばか」思わずその鼻を摘まむ。「そんなの聞いてないから」
 ロウは鼻を摘ままれたまま、けらけらと軽い調子で笑った。
「けど、元気になったってのは本当だぜ。魔法の言葉、だっけ? あれは最強だな」
「その様子から見るに、そうなんだろうね」
 私は呆れ半分で言った。結局男というのは、そういう生き物なのかもしれない。
「けど一番はやっぱ、お前がいろいろ考えてくれたからだな」
 ロウはそう言って、毛布の中の私を引き寄せた。
「ありがとな。これからは心配かけないようにすっから」
「そうじゃないでしょ。かけてもいいんだよ、心配は」
 重要なのは、それを一人で抱え込まないことだ。分け合えるものは分け合うべき。だって私たちはそのために一緒にいるのだから。
「そうだな」
 ロウは呟いて、私をもう一度きつく抱き締める。その胸元からは、やっぱりロウの匂いがしていた。私はそれを密かに肺いっぱいに吸い込む。うーん、さっきよりもちょっと濃くなったような気もしないでもない。
 そんなふうにこっそり愉しんでいたら、ロウの手がふっと背を離れた。と思うとたちまち寝間着の隙間を探り始める。
「……何、この手」
「もう1回、いや、もう10分!」
 迷い犬のような目をしてロウは言った。私は問答無用でその鼻先をもう一度強く摘まみ上げた。

 終わり