気まぐれ文章

短いのとかそうでないのとか

双世界狼梟目撃談②

 職業柄、お客さんの顔を覚えるのは得意なの。常連さんには「いつもありがとうございます」ってお礼が言いたいじゃない?
 でも、その子はこの辺ではあまり見慣れない格好をしているから、2、3回店に来ただけで覚えちゃったわ。おまけに後ろのフードからいつも可愛いフクロウちゃんが覗いているんだもの。印象に残るのは当たり前よね。
 ある時、彼女が男の子を連れて店に来たの。
「いい匂いがするでしょ? 私のお気に入りのパン屋さんなんだ」って言って、二人でパンをいくつか買って帰っていったわ。男の子の好みが偏っているからか、彼女が注意していることもあったわね。それくらい二人の間は近しくて、気軽なものだったようね。
 そういった光景を何度か見かけてしばらくした時、彼女が一人で店に飛び込んできたことがあったのよ。
 急に雨が降り出したわけでもないの。ただ、ちょっと焦った様子で店に駆けこんできた彼女は少し息を切らしていたわ。
 まさか悪漢に追われているのかとも思ったけれど、違ったみたい。彼女は店の外の様子を窺いながら、何かに悩んでいるみたいだった。何度も何度もガラス窓から外を気にして、それでいて一歩踏み出せないでいるみたいだった。
 どうしたのかしら、と様子を窺っていたんだけれど、彼女は少し考えてからパンを選んで買っていったわ。うちでも売れ筋のパンを2つ。
 それを見て、わたしは納得したの。それからそのパンを丁寧に包んで、「いつもありがとうね」と声を掛けたの。
 彼女は少し照れくさそうに笑って、ぺこっと頭を下げていったわ。フードの中にいたフクロウちゃんも、嬉しそうに目を細めていた。
 あのパンはきっと仲直りのパンだったんじゃないかしら。男の子と二人で食べるために買ったパン。
 彼女が買っていったのは、いつも彼女が好んで食べるような甘いパンじゃなくて、男の子の好きな大きなソーセージが乗ったパンだったから。

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#モブ視点 #ロウリン