習作や小ネタ 2024/11/11 Mon 小ネタ①続きを読む 初めて手に入れた端末は、最新の機種だった。 努力の末の勝利だった。周りの友人は皆持っているのに自分だけどうして、勉強頑張るからお願い、と両親に必死に頼み込んでようやく了承を得たのだ。 言われた通りの成績を保ち続けること約半年。手のひらサイズのそれへと形を変えた努力の結晶は、今私の手の中で光り輝いていた。 早速連絡先を登録していく。両親の番号とアドレスを打ち込み、次はと考えて思いついたのは、幼馴染のあいつだった。 既に番号は聞いていた。今日両親と一緒に買い物に行くことを伝えた際、すぐに登録できるようメモをもらっていたのだ。 番号を打ち込んでロウの名前を登録する。そういえば、アドレスの方は聞いていなかった。まあいいか、それはまた今度でも。ロウの家は目と鼻の先。アドレスくらい、聞きに行こうと思えばいつでも、すぐにでも会いに行けるのだから。 そこでふとイタズラ心がわいた。今電話を掛けたら、ロウはびっくりするんじゃないか。まさかすぐそばに暮らしている私から突然電話が掛かってくるとは夢にも思うまい。 ついでにこちらの番号も教えられてちょうどいい。私は迷うことなく、電話帳から登録したばかりのロウの名前を引っ張り出してきた。 通話ボタンを押すことにもためらいはなかった。数回の呼び出し音の後で、プツッとそれが途切れる音がした。〈――もしもし?〉「……――!」 聞こえてきた声に、私は思わず端末を耳から離してしまっていた。咄嗟に通話終了のボタンを押してしまう。 もう一度メモと履歴の番号を見比べる。間違いはない。でもあの声は――。 そこで画面が切り替わった。表示された『ロウ』の文字に驚きながらも、そっと通話ボタンを押す。「も、もしもし……?」〈もしもし?〉 聞こえてきた声は、やっぱり馴染みのないものだった。〈お前、リンウェルだろ。いきなりかけてきたと思ったらすぐ切りやがって〉 呆れたような声色にいつもの調子。これは、この声は間違いなくロウだ。〈知らない番号ですぐ切るなんて、イタズラかと思っただろ。端末買うって話聞いてなきゃ迷惑電話に登録するところだったぜ〉「ご、ごめん。まだ操作に慣れてなくて、間違って切っちゃったの」 私がそう言うと、端末の向こうでロウが笑った。〈お前意外と機械オンチなのか? 前から俺のいじってたりしてたくせに〉「うるさいな。ロウのとは違って最新の機種だから、いろいろ慣れてないだけ!」 言いながら、私は緊張と戸惑いを必死に抑えていた。向こうから聞こえてくるのは確かにロウの声だ。でも、なんだかそれはいつもとはまったく違って、まるで別の人のように聞こえるのだった。 そういえば、と思い出す。こういう端末を通して聞こえる声は、本人の声とは違うものじゃなかったっけ。機械の中で限りなく近い音声を合成しているとかなんとか。詳しくはよくわからないが、この世の技術の集合体みたいな端末ならそれも可能だろう。 それにしたって、その声は――。〈リンウェル?〉(……――ちょっと、かっこよすぎない?) いつもより低くて落ち着いた声。それがすぐ耳元で鳴り響くものだから、緊張しないわけがない。 機械越しとはいえ、本人のとはまったくの別物だとはいえ、あのロウにドキドキさせられるなんて。 私はロウの見えないところで密かに口をへの字に曲げたのだった。「ところで、ロウ」〈なんだ?〉「ロウの番号知ってる人って、他に誰がいるの?」〈なんだよ急に〉「いいから。どんな人に教えてるんだろうなって」〈そうだな……まずは親父だろ、あとはその会社の奴らと、お前〉「うん」〈あとは、部活の奴と、バイト先の先輩とか。それとクラスの奴らもだな〉「それって女子も含めて?」〈? そうだな。たまにクラスで集まる時とか連絡もらうからよ〉「そっか」〈それがどうかしたか?〉「ううん、別に」〈?〉「……でも、あんまり電話はしないでね」〈……え?〉 終わり畳む#ロウリン #学パロ favorite
初めて手に入れた端末は、最新の機種だった。
努力の末の勝利だった。周りの友人は皆持っているのに自分だけどうして、勉強頑張るからお願い、と両親に必死に頼み込んでようやく了承を得たのだ。
言われた通りの成績を保ち続けること約半年。手のひらサイズのそれへと形を変えた努力の結晶は、今私の手の中で光り輝いていた。
早速連絡先を登録していく。両親の番号とアドレスを打ち込み、次はと考えて思いついたのは、幼馴染のあいつだった。
既に番号は聞いていた。今日両親と一緒に買い物に行くことを伝えた際、すぐに登録できるようメモをもらっていたのだ。
番号を打ち込んでロウの名前を登録する。そういえば、アドレスの方は聞いていなかった。まあいいか、それはまた今度でも。ロウの家は目と鼻の先。アドレスくらい、聞きに行こうと思えばいつでも、すぐにでも会いに行けるのだから。
そこでふとイタズラ心がわいた。今電話を掛けたら、ロウはびっくりするんじゃないか。まさかすぐそばに暮らしている私から突然電話が掛かってくるとは夢にも思うまい。
ついでにこちらの番号も教えられてちょうどいい。私は迷うことなく、電話帳から登録したばかりのロウの名前を引っ張り出してきた。
通話ボタンを押すことにもためらいはなかった。数回の呼び出し音の後で、プツッとそれが途切れる音がした。
〈――もしもし?〉
「……――!」
聞こえてきた声に、私は思わず端末を耳から離してしまっていた。咄嗟に通話終了のボタンを押してしまう。
もう一度メモと履歴の番号を見比べる。間違いはない。でもあの声は――。
そこで画面が切り替わった。表示された『ロウ』の文字に驚きながらも、そっと通話ボタンを押す。
「も、もしもし……?」
〈もしもし?〉
聞こえてきた声は、やっぱり馴染みのないものだった。
〈お前、リンウェルだろ。いきなりかけてきたと思ったらすぐ切りやがって〉
呆れたような声色にいつもの調子。これは、この声は間違いなくロウだ。
〈知らない番号ですぐ切るなんて、イタズラかと思っただろ。端末買うって話聞いてなきゃ迷惑電話に登録するところだったぜ〉
「ご、ごめん。まだ操作に慣れてなくて、間違って切っちゃったの」
私がそう言うと、端末の向こうでロウが笑った。
〈お前意外と機械オンチなのか? 前から俺のいじってたりしてたくせに〉
「うるさいな。ロウのとは違って最新の機種だから、いろいろ慣れてないだけ!」
言いながら、私は緊張と戸惑いを必死に抑えていた。向こうから聞こえてくるのは確かにロウの声だ。でも、なんだかそれはいつもとはまったく違って、まるで別の人のように聞こえるのだった。
そういえば、と思い出す。こういう端末を通して聞こえる声は、本人の声とは違うものじゃなかったっけ。機械の中で限りなく近い音声を合成しているとかなんとか。詳しくはよくわからないが、この世の技術の集合体みたいな端末ならそれも可能だろう。
それにしたって、その声は――。
〈リンウェル?〉
(……――ちょっと、かっこよすぎない?)
いつもより低くて落ち着いた声。それがすぐ耳元で鳴り響くものだから、緊張しないわけがない。
機械越しとはいえ、本人のとはまったくの別物だとはいえ、あのロウにドキドキさせられるなんて。
私はロウの見えないところで密かに口をへの字に曲げたのだった。
「ところで、ロウ」
〈なんだ?〉
「ロウの番号知ってる人って、他に誰がいるの?」
〈なんだよ急に〉
「いいから。どんな人に教えてるんだろうなって」
〈そうだな……まずは親父だろ、あとはその会社の奴らと、お前〉
「うん」
〈あとは、部活の奴と、バイト先の先輩とか。それとクラスの奴らもだな〉
「それって女子も含めて?」
〈? そうだな。たまにクラスで集まる時とか連絡もらうからよ〉
「そっか」
〈それがどうかしたか?〉
「ううん、別に」
〈?〉
「……でも、あんまり電話はしないでね」
〈……え?〉
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